【訃報】物理学者・戸田盛和先生

数理物理学者の戸田盛和先生がご逝去された。
享年９３歳とのこと。
http://www.asahi.com/obituaries/update/1106/TKY201011060224.html

理論物理を含め数理科学を本格的にやりだしたら、厳密解が求まる、つまり、紙と鉛筆の計算で解が求まる問題、方程式なんて滅多に存在しない。
だからみんな、コンピュータを使って近似解を計算する。
そして、その近似解の計算方法の研究が私の生業になっている。

そうした数理科学の世界において、厳密解が求まる（たぶん）稀有な例に、「ソリトン」がある。
ソリトンとは、例えば、狭い水路を１個の山が進むような孤立波(solitary wave)の現象を指す。
そして、その現象を記述するKdV方程式は、厳密解が求まるのである（KdVは２人の科学者の名前Korteweg, de Vriesの略）。
KdV方程式をはじめ、それに派生する様々な厳密解の求まる方程式は、現在、数理物理学の重要な研究テーマとなっている。
戸田盛和先生はソリトンの数理物理において、世界的な研究者であった。
なお、戸田先生は厳密解が求まる非線形格子振動のモデルを提唱され、それは「戸田格子」と呼ばれている。

私は大学では物理工学科に所属していたが、実験よりはむしろ微積分、力学、電磁気学、量子力学などの練習問題を解くのが好きな学生であった。
だから、ソリトン物理は私にとっても魅力的な分野であった。
同期の一人がソリトン物理の世界に進み、現在その分野で活躍している。
実を言えば、その彼のことが少し羨ましかった。
まあ、どの分野も本気で研究したら、いろいろ大変なことが多いだろうが。

戸田盛和先生のご逝去を痛み、心からご冥福をお祈りします。
合掌。

タグ：戸田盛和 数理物理 理論物理 ソリトン KdV方程式 戸田格子 訃報

コメント 2

戸田先生著作の教科書を使ったような気がしますが、難しくてあまり理解できなかったことを覚えています。
by ymurayam (2010-11-10 20:08) 

コメントありがとうございます。
戸田盛和先生はいろいろとたくさん教科書を執筆されてますね。
私は「楕円関数入門」（日本評論社）が気に入っています。
物理というより応用数学の本ですが。
by 聖Judyのほうき星 (2010-11-12 00:02)